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原宿の路地裏、通称"裏原"のビルの半地下にある、まるで秘密基地のようなサロン"VOLUME"。ここは、流行に敏感な裏原宿族に一番人気との評判も。まるで映画「ブレードランナー」の世界のような近未来でサイバーな空間には、ネイチャーものの映像が流れ、その傍らには、写真集や漫画もあるなど、ひとひねりもふたひねりもある魅力的なサロンです。今回登場するのは、スタイリストの石川勝巳さんさんです。 |
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今年で美容師になって16年目なんですが、ちょうど丸10年経ったときに、仕事にいったん区切りをつけたくて、2年間かけて世界1周の旅に出たんです。ユーラシア、アジア、北・中央アフリカ……、全部で40カ国くらい回りました。もともと宗教美術に興味があったことと、沢木耕太郎や藤原新也の本に触発されたこともあって、自分の目で確かめたくなったんですね。
海外では、路上にゴザひいて、イスを置いて、そこで道行き人に声かけてカットしました。一人をカットし始めると、皆「何だ、何してるんだ?」と近寄ってきてくれて、スライドカットとか演出的なカットをすると「ブラボー!」って喜ばれたりして、おもしろかったですよ。世界遺産をバックに髪を切ったりね。ときに、警察官におっかけられたりもしましたけど(笑)。
でも、それまで仕事も含めて、自分自身の中でいろんなことが、いっぱいいっぱいだったんですが、帰ってきたらとても自由な気持ちになれた。その後、静岡県で1年半、農業をやったんですよ。一軒家を借りて、完全無農薬でお茶や米を作ってるおじさんに教わりながらね。旅と農業の経験から、地球や自然に対して真剣に考えるようになりました。
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農業を終えて美容師に戻るとき、昔からの知り合いであり、この店のオープンの頃から「いつか一緒にやろう」と言っていたオーナーから声がかかって、VOLUMEで働くようになったんです。特にうちの店は、裏原宿の草分けで、人気も高い。また、このエリアのオピニオンリーダー的な存在でもあるんですね。それだけに、お客さんも感度の高い方が多い。流行に関しても、常に早いものを求められるし、お客さんの目もシビア。そういう高いニーズに即応していく力が求められるので、緊張感もありますが、とてもやりがいがありますね。
だから、お客さんとのカウンセリングにも時間をかけます。まず、お客さんのメイクやファッションから、イメージをつくり、お客さんの要望をふまえ、その方の仕事やライフスタイル、好きな音楽、いつも読む雑誌なんかをうかがって、イメージをふくらましていきます。カットしているときも、お客さんの視線がどこにあるかに気をつけています。もし、お客さんが気になったり不安に感じていることがあれば、その場で解消して、より満足のいくスタイルに近づけようと心がけています。僕自身は、個人的にはショートボブが好き。でも、この店はこういう雰囲気ながら、親子二代で来られる方とかコンサバの方など、ほんといろんなタイプのお客さんが多くて、とてもおもしろいです。 |
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美容師になったきっかけは、中学生の頃から、手に職をつけたいと思っていたんですね。時代はまさにDCブームでファッションに興味を持ったのですが、僕は自分自身を飾るより、きれいなものを見ていたり、人をきれいにするほうが好き。それに男性より女性ファッションのほうがおもしろそう、ということでヘアメイクの仕事に憧れたのが最初。
僕の高校は陸上が強い学校で、僕も長距離の選手だったんですが、足を故障して陸上を諦め、アルバイトを始めたんです。もともと人と接するのが好きなんですが、大人の人と話がしたくて接客業のアルバイトをしたんです。サービス業っておもしろいなぁ、と。そんなことがあって、自然と美容師の道に進みました。
美容師になって最初の店は、横浜でした。僕らの頃はインターン制度があったので、ちょうどバブルの真っただ中をインターンで過ごしました。きらびやかな周囲がうらやましいとも思ったけど、挫折感はなかったかな。それよりも、自分の作ったスタイルが世に
出るという感動、そしてお客さんとの信頼感、これを味わえることが楽しかった。特に初めてのお客さんが、また次も来てくれたときはうれしいですよ。リピートしてくれるっていうことは、何らかの期待があってのことですからね。だからこちらも、それを上回るものを提供しなきゃ、って燃えますね。 |
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休みの日は"農業"です。ちょうどいま、茶摘みの時期ですから、忙しいんですよ(笑)。今も、以前、世話になってた静岡県の富士宮に通っています。僕、旅に出て、農業をやってから、皆から顔が優しくなったといわれるんです。今、振り返れば、美容師になった頃はもっととんがっていたし、確かにもっと険しい顔をしていました。毎夜、クラブに通ったりして、昼よりも夜中心の生活でしたからね。もちろん、それも楽しかったんですが、今みたいに農業をやって、土くさいところで風を感じていると、とてもおだやかな気持ちになれるんですよ。趣味はディジュリドゥ。これは、オーストラリアの先住民族アボリジニが、儀式などで用いる世界最古の木管楽器。すごく自然な音で心がやすまりますよ。将来は、自分で店を持つっていうより、オーナーと二人でこの店を大きくしていきたい。店舗を増やすとか、そういう具体的な大きさじゃなくて、内容を大きく深くしていきたいですね。 |
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