もともと母親が舞鶴で美容室をやっていて、その二代目なんです。子供の頃から母の働く姿を見ていたので、美容師という職業はとても身近なものでした。誰に教わることもなく、家のお店を借りて友達や後輩の頭をタダで刈っていましたね。そのおかげか人をカットする怖さみたいなものは全くなかった。今思えば、日常に美容師としての環境が整っていたことはありがたかったですね。本格的にこの道を歩みはじめたのは、高校を卒業してからかな。当時は先輩とのコミュニケーションが苦手で、修業時代の3年間は自分が決めたレッスン方法、独自のスタイルを貫いていました。ワインディングでもカットでも上手くなる方法というのは、夜遅くまで残ってやったらいいというもんじゃない。これは僕なりの持論なんですが、集中力と取り組み方を変えることが大切なんです。先輩たちがどういう風にカットしているのか、スライスのとり方からハサミの入れ方、回数まで…。毎日観察していると「どうすればこうなる」という実例が頭の中にストックされ、営業中だけでも十分にレッスンになる。そういったモノの見方は技術を高めるだけでなく、お客さんに対しての細やかな気配りにもつながるんです。

  21歳で独立。舞鶴で3店舗を経営し、30歳でここ三田に4店舗目を出店しました。たまたま道に迷って三田ニュータウンに来たら、そこが僕の描いていた町だったんです（笑）。実際に訪れて、歩いてみて、その空気感が気に入って。それが僕の出店コンセプト。立地などのマーケティング論よりも、自分の感性や気持ちが大切だと考えています。ネームバリューもなく、身内も知人も誰もいないところに出店することは、僕のひとつの壁越えでしたね。二代目という枠も何もないところでゼロから勝負できたのは、大きな自信とスキルにつながりました。それは韓国出店にも活かされています。韓国にはソウルに2店、プサンに1店あるんですが、当時、前例がなかった韓国での出店は周りから大反対されましたよ。「お金、人、モノ、言葉…、どうするの？」って。でも一つ一つクリアしていくことができたのも三田店での経験のおかげだと思っています。やっていて本当によかったと感じるのは、女性を立ててあげられる職業だということ。僕の中では世界は女性が一番、男性が二番目なんです。尊敬している女性に、心からのおもてなしを尽くせるのが最大の喜びですね。

  仕事もそうですが、遊ぶことも大好きですよ。海が近いのでサーフィンやスキューバーダイビングなどのマリンスポーツが多いですね。冬はスノーボードなどをやっています。でも夜遊びは一切なし。僕のライフスタイルの師匠が岩城晃一さんなんです。彼の言葉で「人はしたいか、したくないかだ」というのがあって、サーフィンでもそうなんですが「したいけどお金がない、時間がない」って言う人は、結局はしたくないんですよ。できない人間は、できない理由をいろいろ並べたがる。それは本当はしたくないことになるんです。逆にしたい人はできる理由や方法から考えます。これは出店でも、自分の人生でもそう。本気でやりたいことはできることなんです。そして僕の中ではサーフィンすることも、遊ぶこともすべて仕事とイコール。だからリラックス方法などもとくになく、「仕事を頑張ったからサーフィンしよう！」という考えも全くないですね。遊ぶことも趣味、美容も趣味、出店も趣味。ストレスがないのがストレスなほどです。遊び仲間や交流関係は異業種の人が多いですね。刺激も多いですし、悩みを共有しなくても済みますから（笑）。

  「技術が上手くなるにはどうしたらいいですか？」とよく聞かれるんですが、まずは気持ちからなんです。そこから出発しなくては、技術も何も上達しない。その気持ちの部分とは、元気よく声を出したり、笑顔で接客したり、5分早く起きて、5分早く出勤したり。そういった前向きな姿勢は、その日から簡単にできることなんです。例えば掃除でも、鏡が汚れているのがわからない人間がカットのことまで気付くわけないと、いつもスタッフにも言っています。まずは人間としてのマナーやルールがあって、自分の生き方があって、美容師としての人生があるんです。僕自身も日々勉強。毎日が焦りの連続で、まだ足りない、まだ満たされていないという危機感を常に持っています。現状に満足してしまったら今のレベルで終わるでしょ？だから今がスタートラインなんです。この夏、ロサンゼルスに出店する予定なんですが、最終的には僕の大好きなイタリアにも店を出したいですね。世界のあらゆる国の人に日本のスタイリング、おもてなしの心を拡大していきたい。若い人たちにも「ロスは通勤圏内」くらいのものさしで、ビジネスチャンスを掴んで欲しいですね。