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Bali
“Hello, from the world!”は、世界の様々な街からのファッション・レポートです。
第29回は、南国の楽園バリ島から、森きくおさんが写真とお便りを送ってくれました。
街のファッションスナップ Hello! from the world VOL.29
 日本でも人気の観光地バリ島。でもこの島がインドネシアだということを知っている人は、案外少ないかもしれません。インドネシアは人口約2億人、総面積は日本の5倍、13667の島からなる群島国家で、バリ島もその一つです。私が住んでいるのはバリ南部のウブッド。ウブッド近辺は芸術村と称され、多くの自然の素材を使ったクラフト作りが盛んで、家具、石彫木彫、銀細工、絣、染めと、半農半芸の村がたくさんあります。16世紀、ジャワのマジャパイト王国がイスラム勢力によって滅ぼされる時、ジャワの音楽家、詩人、画家、影絵芝居、舞踊家そして貴族達がバリ島に亡命しました。渓谷と複雑な地形と、冷泉水に恵まれた攻められにくい地を選んだのです。そしてこのウブッドでバリ島の古典芸術を完成させたのです。
伝統ファッションにもある流行儀式、
お祝いには競ってその粋さを誇示します
 カデッ・ディアニさんは21才、ウブッド郊外のサヤン村に住む娘さん。12人兄弟の末っ子で、3世代共に住む家の家事から、儀式のお供えもローケツ染めもします。観光客相手の仕事はせず、ひたすら古風な家族、村社会の中でいつも明るく生活しています。ボーイフレンドはボディビルをしている同じ村の青年で幼なじみだそうです。
 最近は日本でも夏になるとサロンを腰に巻いている女性もいますが、カデッさんのまとっているサロンはジャワ島のバティックで染められたもので、若い人も渋い色のサロンを巻くことで、シックなのです。この儀礼服はケバヤと言って、レースで作られた上着にサロンそして腰には布のベルトを巻き、昔は裸足でしたが、今はサンダル、ゾウリを履き(ヒールサンダルを履く女性もいます)。カデッさんの上着はシースルーのレースではなく、手織り綿の生成り地に花のエンブロイダリーをしたもの。オシャレでナチュラルな感じが色の多い自然の中ではシックにさえ写ります。バリのお寺に入る時は、肌を露出するものは禁じられ、サロンと長袖そして腰巻きが必要です。今日本の女性もバリの女性のような、フェミニンなドレスを少しずつ求められている様に思います。
カデッ・ディアニさん
バリの女性は清潔好きで、朝夕マンディ(沐浴)をして、冷たい水で体と髪を洗い、強い皮膚と髪を作りあげています。生まれて3ケ月は子供は男女関係なく丸刈りにして(不浄なものが頭に宿らないように)、その後女の子は髪を切ることなく長く伸ばし、植物の油をつけて櫛を入れ、染めることなく黒々とした長髪をなびかせて、バリの景色をより一層美しくしています。切った髪は村の守護身であるバロン(獅子舞の獅子のような面)の頭髪に使うことで、神に寄与し、厄払いを兼ねています。カデッさんはストレートのロングヘア。今日はバックでまとめています。
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カデッ・ディアニさんカデッ・ディアニさん
キキさんキキさん
アニマルプリントのタンクトップに白いミニスカート
貝殻のついたサンダルがトロピカルさをプラス
 バリ島は昼間は暑く、皆Tシャツにジーンズ、ショートパンツが定番ですが、女性は肌が焼けるのを嫌い、特に若い女性は昼間外に出る時、またバイクに乗る時も長袖を着ます。これは肌の白い人がハイクラス社会の人というイメージがあるからです。
 キキさんはジャカルタ出身の25才の女性。ファッションデザイナーで、いろんな服を作っています。彼女のオリジナルのタンクトップはジャワのバティックで染められたもので、シルクの生地にアニマルプリントのようなデザインが、暑い島によく似合います。彼女の履いているサンダルは丸い貝のついたもので、アンクレットと合わせてトロピカルな雰囲気がより一層焼けた肌にマッチしています。ダンスの好きなキキさんは明るくそして英語も話すモダンな女性で、彼女の回りは欧米の友人が一杯です。ユーモアとウイットに富んだキキさんは、パーティでも人気者で、いつも笑顔が一杯の楽しい、そしてセンスのいいインドネシアの女性です。
キキさん

ちょっとくせのあるロングヘア。ヘアの写真というので、後ろでまとめていた髪を下ろしてくれました。手に持っているのは毛皮のような素材の髪止めで、タンクトップと合わせて、アニマル的雰囲気がより強調されワイルドなファッションの中に都会的な感覚が見受けられます。
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about Bali
【 段々畑 】
 
段々畑は、原始マレー人がバリに優れた水稲耕作を持ち込み、山から海へと伸びる勾配に地形を変えずに作ったもので、この農業用水のシステムは「スバ」と言い、生活用水も兼ねたバリ人にとって最も大切なシステムです。気候的には三毛作も出来るのですが、稲の刈り入れの後、害虫駆除と土を肥やすためにアヒルを放ちます。お米はバリ人の主食であり、お供え物にも使われ、儀式には額とこめかみに米粒を着け参列します。米の種類も赤米、黒米、玄米、餅米と豊富で、煎餅やまんじゅうも作ります。時々日本の農業高校の修学旅行のバスを見かけます。
段々畑
【 お祭り 】
 毎日何処かで行われている儀式、お祭りの行列はまさにパレード。各村には聖山のアグン山に近い所に一つと、海に住む悪霊の方向に一つ、二つの寺があり、その寺から寺へ儀式服に身を包んだ村人が、守護身のバロンを担ぎ行進します。先祖神を迎えるガルンガンは年2回あり、日本のお盆と正月を一緒にしたようなお祭りで、お祈りの日々が続きます。村社会のバリ島は全ての行事に全員出席します。子供、お年寄りも皆で一緒に神への崇拝、悪霊の癒し、そして人に感謝と、来る日も来る日もお参りをして人生の通過儀礼にその時間と労力と心を捧げます。これが彼らの人生の仕事で、金儲けが仕事ではないのです。
お祭り
【 お寺参りの後、村まで着飾った女性の行進 】
 女性は着飾ってゆっくりとご詠歌を唱いながら、ガムランバンドは音楽を奏でながら守護神バロンと山車を担ぎ何キロも歩きます。村によって、また儀式の内容で着る服も違ってきます。普段はTシャツとパンツでいる女性も近所の食堂や八百屋のおばさんも、儀式にはお化粧ときらびやかな衣装に身を包み、堂々と、そしてプライドいっぱいに行進するのです。家の寺、村の寺、郡の寺、島の寺そして悪霊を癒す海の寺とお寺参りもたくさんあり、一年の半分以上はこの儀式をしています。
行進
about Dance
バリダンス 【 プロのダンサーを夢見てバリダンスの練習をする子供達 】
 バリではダンサーは憧れの一つで、男の子も女の子も小さい時から近所の公民館などで学びます。手と目が大切と言われるこのバリダンスは日本の女性にも大変人気があり、たくさんの人が勉強に来ます。観光客のためのダンスは過激ではありませんが、村人が踊る村の悪霊除けのダンスは人が猿の化身になったり、短剣を体に刺しても血が出ないと言う神秘的なもので、真夜中の村で行われています。昼間はのどかな村も夜は悪霊の時間のようです。
ダンスオーディション 【 ダンスオーディションを受けるバリの女の子達 】
 バリには沢山のダンスグループやガムラングループがあり、プロとして世界公演を続けている人もたくさんいます。中でもティルタ・サリ楽団は有名で日本にも何度も公演に行っています。そんなダンサーを夢みて多くの子供はあらゆるコンテストにそのチャンスを求めています。この写真のダンスはクプクプ(蝶々)ダンスと言う、まるで蝶々が舞うように踊る群舞です。特に子供達には人気のあるダンスで幼稚園や学校でもよく演じられます。このようなコンテストはしばしば開かれ、この時の為に日頃から皆練習を重ねています。そして夢は素晴らしいダンサーになる事なのです。
about Game
【 闘鶏の顔合わせ 】
 バリの田舎に行くと、おじさんが大切そうに鶏をなぜなぜしている姿によく出逢います。インドネシアでは闘鶏は禁止されていますが、バリだけは特例で、儀式の生け贄的意味、また儀式の祭事の一つとしてお寺の境内の横の空き地で行われています。鶏の足先にブレード(刃)をくくり着けどちらかが傷つくまで闘わせる残酷なゲームで、この勝負に皆はお金を賭け、勝った鶏は負けた鶏と掛け金をもらえます。これがおじさん達を余計に必死にさせるのでしょう。普段はニコニコしているおじさん達もこの時だけは必死の顔をしています。闘鶏は男の儀式であり、楽しみであり、ギャンブルでもあります。
闘鶏
バリ
 バリ島は東西140キロ、南北80キロの島に、富士山とほぼ同じ高さのアグン山(3142m)があります。宗教は仏教とヒンドウ教が混ざった、自然、聖水信仰でもあり、その恵まれた自然と、ポジティブなバリ人は観光地は別として、仕事の為に生きていないユニークな民族です。ウブッドには5つの美術館と無数のギャラリーがあり、多くのヨーロッパのクリエーター達も住んでいます。世界の50選ベストレストランの中で東南アジアでは唯一選ばれたフランス レストランもウブッドにあります。
Reporter
 カリフォルニアの大学でアートを勉強した後、大阪とロスアンジェルスでギャラリーをオープン。その後絵画や壁画の制作活動に入り、2001年からはバリ島のウブッドに居住。大阪とバリとを行き来しながら、大阪とインドネシアとの芸術交流の活動を続けている森さん。「日本はこれから寒くなっていきますが、バリはこれから暑くなり12月には雨季に入ります。今、花と緑の美しい時期です。ぜひ遊びに来てください」とのことでした。




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